安田研究室テーマ紹介





 我々の研究グループでは、原子配列、転位、面欠陥といったミクロ組織、粒界構造や集合組織といったマクロ組織を制御し、結晶性材料に力学的、電気的、磁気的といった様々な機能を発現させることで、新材料開発を行っています。例えば力学特性でいえば、転位一本一本の運動挙動を制御することで、材料全体の強度を飛躍的に向上できれば理想的です。現在の具体的なターゲットとしては、高温耐熱材料、形状記憶・超弾性合金、永久磁石、溶接材料等です。また、中性子回折、SEM-EBSD、ナノインデンテーションといった新規手法の開拓にも積極的に取り組んでいます。特に、変形機構を解明するために、材料の変形中の組織変化をマルチスケールかつリアルタイムで観察する「マルチスケールその場観察法」の確立を目指しています。具体的な研究テーマは以下のとおりです。

(1)航空機用TiAlタービンブレードの開発
 TiAl合金は軽量高強度で耐酸化性にも優れることからボーイング787のGE製ジェットエンジンのタービンブレードとしてすでに実用化がなされています。しかしながら、TiAlはきわめて活性であることから、るつぼとの反応、表面の酸化が生じるため、表面を大きく研削しなければならず、これにより材料のロスが大きいのが問題となっています。近年、このTiAlを電子ビーム三次元積層造形装置で作ることが検討されています。いわゆる金属系の3Dプリンターです。同装置では、任意形状の三次元構造体を簡単に作製できるのはもちろんのこと、るつぼを使わず、真空中で作成するため、材料のロスもきわめて少なくなります。そこで、我々はTiAlを三次元積層法により作製する手法を確立することを目的として研究を行っています。


(2)ギガパスカル級高温耐熱材料の開発
  Fe-Al-X(X=Ni,Co)合金では、bcc構造のFeにbcc構造を基礎とするB2型構造の化合物相を整合析出させることが可能です。こうした合金では、一見すると単純な析出強化が生じそうですが、我々の研究グループでは、bcc母相と化合物相とで主すべり系の違いに由来して、高温でもギガパスカル級の降伏応力が得られることを見出しました。そこで我々は、この新規強化機構を利用した新しい耐熱合金の開発を行っております。なお、Fe-Al-Ni合金は高強度かつ制振特性にも優れていることから、制振材料としての開発も行っています(日経産業新聞にも取り上げられました)。


(3) マルテンサイト変態によらない新規超弾性合金の開発
 超弾性とは大きな変形を加えても除荷するだけで形状が回復する現象で、携帯電話のアンテナ、めがねのフレーム等に利用されています。そのほとんどはマルテンサイト変態およびその逆変態により超弾性を発現しますが、Fe3AlならびにFe3Ga化合物では逆位相境界(APB)をひきずった転位の可逆的な運動により巨大な超弾性が発現します。そこで、我々はその発現機構の詳細を明らかにするとともに、機能を最大限引き出すための組織制御に取り組んでいます。

(4) 熱間塑性加工によるNd-Fe-B磁石の特性改善
 セラミックの研究(ジルコニアセラミックスの超塑性)で培ったノウハウを活かして、熱間加工による集合組織制御によりNd-Fe-B磁石の特性改善に取り組んでいます。企業との共同研究を実施しています。


(5) 中性子回折を利用した組織・応力解析
 茨城県東海村に竣工したJ-PARCの中性子回折装置を利用して、様々な材料の組織・応力解析を行っております。例えば、高張力鋼溶接部の残留応力評価、(2)で述べた超弾性合金の変形中の組織解析などに応用しています。


(6) ナノインデンテーション法を利用した微小領域・界面の強度評価
 ナノインデンテーションは微小領域の力学特性を把握するための手法として近年注目されていますが、我々が特に注目しているのは界面の力学特性評価です。例えば粒界近傍にナノインデンテーションを行うと、界面を介した変形の伝播挙動に関する知見を得ることができ、粒界個々のホール・ペッチ係数を測定することが可能です。これに限らず、ナノインデンテーションの特性を活かした新規評価手法を開拓しています。


(7) マルチスケールその場観察
例えば超弾性合金は応力を負荷している間は組織変化を生じますが、除荷すると組織が復元するため、除荷後の組織をいくら観察しても、機能発現機構の解明には限界があります。そこで、我々の研究グループでは材料の負荷時の組織変化をリアルタイムで観察するその場観察法を積極的に導入しています。さらに、単なるその場観察ではなく、TEM、SEM-EBSD、光学顕微鏡、中性子回折といったミクロからマクロまでのその場観察手法を併用した「マルチスケールその場観察」とも呼ぶべき手法の確立を行っています。