超温度場材料創成学 巨大ポテンシャル勾配による
原子配列制御が拓くネオ3Dプリント

       

超温度場材料創成学

巨大ポテンシャル勾配による
原子配列制御が拓くネオ3Dプリント

代表挨拶

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令和3年度文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域(A)に私たちが提案した領域「超温度場材料創成学:巨大ポテンシャル勾配による原子配列制御が拓くネオ3Dプリント」が採択され、令和3年10月より研究活動を開始致しました。

本領域では、金属3Dプリント、特に粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion: PBF)型付加製造(Additive Manufacturing: AM)で用いられる電子ビームやレーザーによる局所加熱での発現が見出された概ね1000万K/m以上にも及ぶ大きな温度勾配を「超温度場」と定義し、超温度場での結晶成長における未知現象に注目し、超温度場における原子配列制御を基軸とする研究を展開することで、新材料創成の学術的基盤となる超温度場材料創成学を構築し、社会へ貢献することを目指します。
金属3Dプリンタは一般に、(i)CADデータから型の製造を介さずに部材を製造できること、(ii)従来加工法では困難な複雑形状部材を製造できること、(iii)切削と比べて材料の歩留まりが良いこと、などを特徴とすると認識されています。それに加えて、単結晶状材料が得られるなど、材質制御法としても他にはない特徴を有しています。

本領域では、その特徴の背後にある超温度場下での結晶成長を、凝固速度1m/s以上にも及ぶ「高速エピタキシャル成長」や、絶対安定性の存在に注目して、先端的その場観察や分析などの実験科学および数値シミュレーションやデータ科学などの計算科学の連携により解明します。さらに、それらにより得られる知見を基に、高品質単結晶の3DPなどの新技術の学術的基盤として超温度場材料創成学を構築します。研究対象は金属や合金だけでなく、セラミックス、半導体など種々の材料にも拡げて展開し、知見の一般化を図ります。
これらの研究を、デジタル研究基盤グループ、先端計測観察グループ、新材料創成グループが有機的に連携した研究体制、大阪大学異方性カスタム設計・AM研究センター(センター長:中野貴由 教授)を中心とする全国の大学、研究所が連携した運営体制で遂行いたします。加えて、これらの領域における研究活動を通じて、異分野研究者との交流を推進し、未来の科学技術の発展を担う若手研究者を育成します。

小泉 雄一郎 超温度場材料創成学 領域代表者

小泉 雄一郎

超温度場材料創成学
領域代表者

金属3Dプリント(3DP)での発現が見出された電子ビームやレーザーによる局所加熱で発生する超温度場での溶融・凝固における「高速エピタキシャル成長」などの特異な結晶成長のメカニズムを、絶対安定性の存在などに注目して、高速度光学温度場解析、放射光X線透過イメージング、高時間分解能透過電子顕微鏡内レーザー照射実験などの高度なその場観察実験と、それらと高精度に整合させた、熱流体力学計算、フェーズフィールド計算、分子動力学計算などによる数値シミュレーションで解明する。さらに、それらが産むプロセス-組織(構造)-特性の相関データを人工知能により解析し、3DPによる高品質単結晶化などの新規材料創成に資する超温度場材料創成学を構築し、材料学に大きな変革をもたらす。

研究概要

A01-a班

超温度場デジタルツイン科学 プロセスモニタリングとシミュレーションの融合

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3Dプリントにて発生する超温度場での溶融・凝固を、プロセスモニタリングや組織観察およびそれと整合した熱流体力学計算、さらにその計算結果を境界条件に反映したフェーズフィールド(PF)計算により解析し、3DPのデジタルツイン科学を構築し、その実践を行います。具体的には、微細組織形成への超温度場の影響を、最大1000万K/m以上の急峻な温度勾配での結晶成長、液相表面での温度勾配に由来したマランゴニ流など、超温度場特有の溶融・流動・凝固現象を解析します。その結果を3DPプロセスの最適化予測に役立てるとともに、超温度場での材料の挙動の理解のための基礎となる新しい学術的知見として体系化します。

                               
代表者 小泉 雄一郎 小泉 雄一郎 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・教授
分担者 奥川 将行 奥川 将行 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・助教
協力者 澁田 靖 澁田 靖 東京大学大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻・教授
協力者 大野 宗一 大野 宗一 北海道大学大学院工学研究院 材料科学部門・教授
協力者 市川 修平 市川 修平 大阪大学 大学院工学科 電気電子情報通信工学専攻・助教
協力者 畑中 修平 畑中 修平 大阪大学 超高圧電子顕微鏡センター・技術職員
特任助教 柳 玉恒 柳 玉恒大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・特任助教                
  • 高速度カメラによるプロセスモニタリング

    高速(1m/s程度以上)で走査されるレーザーや電子ビームの照射によって溶融・凝固する材料が発する光による画像を、10万分の1以下の時間間隔で、高速度カメラで撮影し、その画像の解析により表面温度分布の時間変化を計測します。これにより、各種ビームと材料との相互作用と超温度場の生成との関係を解明するとともに、計算機シミュレーションと実験との整合の向上を図ります。

    レーザー走査により溶融する金属の高速度カメラ画像

    レーザー走査により溶融する金属の高速度カメラ画像

    高速度カメラ画像から二色法により評価した表面温度分布画像

    高速度カメラ画像から二色法により評価した表面温度分布画像

  • フェーズフィールド法による結晶成長シミュレーション

    フェーズフィールド法による超温度場下における結晶成長シミュレーションを、材料インフォマティクスを担うA01-b班と連携したデータ同化によるパラメータ決定も活用して実施します。超温度場での方向性凝固を、固液界面移動にともなう溶質分布変化に注目してシミュレーションし、絶対安定によるエピタキシャル成長を含む単結晶育成に有効な条件を解明して、A03班の造形実験に提供します。

    フェーズフィールド法による結晶成長シミュレーション

    フェーズフィールド法による結晶成長シミュレーション

  • 熱流体力学(Computational thermal Fluid Dynamics CtFD)による溶融凝固シミュレーション

    プロセスモニタリングと整合する熱流体力学計算(デジタルツイン)により、実験では得ることの難しい固液界面での温度勾配G、凝固速度R、流速U、および固液界面移動方向Φを評価し、材料特性を支配するナノ・ミクロ組織形成への超温度場の影響を解明します。

    熱流体力学によるレーザービーム走査下での溶融・凝固シミュレーション

    熱流体力学によるレーザービーム走査下での溶融・凝固シミュレーション

  • 分子動力学法による固液界面シミュレーション

    分子動力学計算による固液界面移動のシミュレーションを行い、フェーズフィールド法による結晶成長シミュレーションで必要となる界面移動度を材料インフォマティクスのA01-b班と連携して決定します。さらに、従来の凝固プロセス中とは大きく異なる超温度場下での溶質分布に注目し、凝固速度上昇にともなう溶質分配係数の変化を評価します。

    分子動力学法による固液界面シミュレーション

    分子動力学法による固液界面シミュレーション

A01-b班

超温度場材料インフォマティクス ビッグデータからの法則発見と最適化予測

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材料インフォマティクスを用いて、実験研究とシミュレーション研究の橋渡しをするために、以下のミッションに取り組みます。順-逆解析:「所望の特性を発現する結品組織」、「その組織を創成するプロセス条件」の導出を可能とし、その法則の背後にある物理を解明します。データ同化:熱流体力学(CtFD)シミュレーションやフェ一ズフィールド(PF)シミュレーションで必要となる易動度や界面工ネルギ一等の物性値パラメータを、アジョイント法などのデータ同化手法を用いて効率的に決定します。3D観察:組織の特徴量を3D観察結果に基づき定量評価します。

                                               
代表者 足立 吉隆 足立 吉隆 名古屋大学大学院工学研究科 材料デザイン工学専攻・教授
分担者 山中 晃徳 山中 晃徳 東京農工大学大学院 工学研究院先端機械システム部門・教授
協力者 中田 伸生 中田 伸生 東京工業大学物質理工学院 材料系・教授
協力者 鈴木 飛鳥 鈴木 飛鳥 名古屋大学 物質プロセス工学科・助教
特任准教授孫 飛 孫 飛名古屋大学大学院工学研究科 材料デザイン工学専攻・特任准教授                
  • 本計画班の研究目的

    本計画研究では、材料インフォマティクスを用いて、実験研究とシミュレーション研究の橋渡しをします。具体的には、A01-a、A02、A03班と連携しながら、必要なデータの自動収集・補間、組織の徹底的な定量解析、任意組織を実現するプロセス最適化のための順・逆解析、シミュレーション精度向上のためのデータ同化に取り組みます。

    材料インフォマティクス(MI)の全体像(青:実験、黄:シミュレーション、赤:データサイエンス)

    材料インフォマティクス(MI)の全体像
    (青:実験、黄:シミュレーション、赤:データサイエンス)
    ※先進的その場観察とフェーズフィールドシミュレーションをつなぐデータ同化

  • 進行中の研究課題

    1. 最先端敵対的生成ネットワークによる三次元組織像の超高速技術の構築
    2. 三面研磨装置(“Cube polisher”)の開発
    3. シリアルセクショニング/EBSDによる高解像度三次元像の取得
    4. 状態図計算による相平衡挙動の解析
    5. データ同化
    3面研磨装置(“Cube polisher”)の設計図

    3面研磨装置(“Cube polisher”)の設計図

    3面観察結果

    3面観察結果

A02-a班

超温度場結晶成長マイクロダイナミクス 透過X線その場観察

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金属3Dプリントにて生じる局所的かつ極めて急速な溶解・結晶化過程を放射光X線イメージングを駆使し、μオーダーの時間・空間分解能でその場観察します。溶融池内での凝固速度やその変化、成長方向、マランゴニ流をはじめとした液相流動とそれによる溶質輸送等の定量性のある観測・計測データを獲得するだけでなく、既造形組織と溶融池、溶融池と金属粉体の相互作用等、周辺環境も含めた「超温度場結晶成長マイクロダイナミクス」を実証的に明らかにしていきます。これらをA01-a班「デジタルツイン科学・材料インフォマティクス」に提供することで相補的に超温度場下での結晶成長の描像を明らかにすることを目指します。

代表者 森下 浩平 森下 浩平 九州大学大学院工学研究院 材料工学部門・准教授
協力者 上杉 健太朗 上杉 健太朗 公益財団法人 高輝度光科学研究センター 散乱・イメージング推進室・主席研究員
協力者 安田 秀幸 安田 秀幸 京都大学大学院工学研究科 材料工学専攻・教授
  • 対象とする超温度場結晶成長
    マイクロダイナミクスとそのスケール感

    レーザー照射による急速溶解とその後の結晶成長は、既に造形した層への濡れや抜熱、これから取り込む粉体との関係、メルトプール形状の変化といった「非定常」な現象に大きく影響されると予想されます。これら周辺環境も含めた、超温度場における溶融池スケールでのマイクロダイナミクスを明らかにしていきます。

    溶融池スケールで生じる種々のマイクロダイナミクス

    溶融池スケールで生じる種々のマイクロダイナミクス

  • 放射光X線イメージングを用いた
    急速溶解・急速凝固挙動のその場観察

    大型放射光施設SPring-8にて、合金に応じた適切な吸収が得られる任意波長のX線を選択し、急速溶解・急速凝固中の試料に透過させます。液相・固相の密度差や固液の分率、溶質分布に応じた吸収コントラストをビームモニタでとらえることで50µsの時間分解能と1〜サブµmの空間分解能とでその場観察を行います。

  • レーザー照射による急速溶解・急速凝固挙動

    レーザー走査と共に、全溶融領域、固液共存域、凝固完了域が追随していく様子が観察できています。図では5mm/sと走査速度が遅いですが、今後ガルバノスキャナを用いたm/sオーダーの走査速度での現象の観察を進めます。また、位置を固定してms~サブmsのレーザー照射により、溶融池形状と凝固組織の関係等を明らかにしていきます。

    Al-15mass%Cu合金のその場観察像。明るい領域は元の初晶α相、暗い領域が共晶

    Al-15mass%Cu合金のその場観察像。
    明るい領域は元の初晶α相、暗い領域が共晶

  • 超温度場によって引き起こされる液相流動

    超温度場は大きな表面張力勾配を生み出すことでマランゴニ流を発生させます。図は銅粉体の溶融池内部に取り込まれたガスの動きから対流を観察した例です。非定常な液相流動が、溶融池の形成過程やその形状、凝固とどのように相関するのか、熱および物質輸送、溶断への影響等も含めて本研究で実証的に明らかにしていきます。

    Cu粉体へのレーザー照射によって形成された溶融池内の対流

    Cu粉体へのレーザー照射によって形成された溶融池内の対流

A02-b班

超温度場格子欠陥アナリシス 先端分析材料科学

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3Dプリントでは、従来の溶融・凝固プロセスにはない巨大な温度勾配が生じるなど、その結晶成長には未解明な点があります。本計画班では、先端分析手法(超高圧電子顕微鏡法、中性子回折法、陽電子消滅法)を駆使した「形態、歪、空孔」の複合的・統一的解析(超温度場格子欠陥アナリシス)を行うことにより、粉末床溶融結合法(PBF)により形成される合金の3次元組織・組成、応力場・歪場、格子欠陥を明らかにして、3Dプリントプロセスの体系化に資する材料組織学を構築します。

                                                               
代表者 佐藤 和久 佐藤 和久 大阪大学 超高圧電子顕微鏡センター・准教授
分担者 趙 研 趙 研 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・准教授
分担者 水野 正隆 水野 正隆 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・准教授
協力者 安田 弘行 安田 弘行 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・教授
特任教授 市川 聡 市川 聡大阪大学 超高圧電子顕微鏡センター・特任教授                
特任研究員 高木 空 高木 空大阪大学 超高圧電子顕微鏡センター・特任研究員                
  • 超高圧電子顕微鏡による微細組織の3次元構造解析

    世界最高性能を誇る超高圧電子顕微鏡と最新の電子直接検出型CMOSカメラを活用して、3Dプリント材における微細析出物やナノポアの分布、形状、密度と溶融池周縁部組織・組成の解明を目指します。高い透過能と最新分析手法を駆使して、溶融池形状を反映した厚膜試料における微細組織・組成分布の3D可視化に挑戦します。

    物質・生命科学超高圧電子顕微鏡(大阪大学超高圧電子顕微鏡センター、2015年度設置)。電子直接検出型CMOSカメラ、STEM、エネルギーフィルター、世界初となるクライオステージを搭載しています(現在は通常型ポールピースにて稼働中)。最高加速電圧1250kV。試料2軸傾斜、試料加熱・冷却、電場印加観察が可能です。

  • 陽電子消滅法による格子欠陥の検出

    格子欠陥を高感度で検出可能な陽電子寿命測定により、3Dプリント材において超温度場に由来して導入される格子欠陥の評価・解析を行い、格子欠陥の種類や濃度、プロセス条件や試料形状・サイズとの関係を明らかにします。陽電子寿命の成分解析と第一原理計算を用いて、格子欠陥の詳細な解析や安定性評価を行います。

    純鉄における陽電子密度の分布と陽電子寿命値。陽電子寿命は消滅サイトの電子密度に反比例するため、消滅サイトによって陽電子寿命が異なることから、格子欠陥の種類を同定することができます。陽電子寿命の成分解析により空孔濃度の定量評価も可能です。

  • 中性子回折法による応力場・歪場の定量解析

    高い透過能を有する中性子を用いた回折法により、各種条件下で作製された3Dプリント材の内部における応力場・歪場を定量解析し、それらのマクロな3次元分布を明らかにします。さらに、電子線後方散乱法によるミクロスケール解析を組み合わせることで応力場・歪場の形成に及ぼす凝固条件や温度分布等の影響を解明します。

    日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター BL19 工学材料回折装置「TAKUMI」の光学系の模式図。白色パルス中性子を試料に入射し、その回折を対面する一対の検出器にて測定します。二方向の回折プロファイルを同時に取得できるため、二つのひずみ成分を同時に解析することができます。

A03-a班

超温度場スーパーチタン創成科学 超温度場を利用した耐熱チタン合金の新組織設計と特性改善

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ジェットエンジン用材料であるチタン合金の超温度場下での単結晶化および微細粒化による適材適所の特性向上のため、3次元積層造形による結晶成長と相変態挙動を明らかにし、それによる組織制御と特性向上をめざします。特に、レーザー/電子ビームによる溶融・凝固プロセス中に発生する超温度場における組織の微細化を生かした組織形成と、力学特性を向上させた材料創成を行います。

         
代表者 戸田 佳明 戸田 佳明 物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 接合・造型分野 積層スマート材料グループ 主幹研究員
分担者 中野 貴由 中野 貴由 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・教授、
大阪大学異方性カスタム設計・AM研究開発センター・センター長
分担者 御手洗 容子 御手洗 容子 東京大学 新領域創成科学研究科・教授
分担者 松永 哲也 松永 哲也宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所・准教授
協力者 小笹 良輔 小笹 良輔 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・助教
  • 耐熱チタン合金の従来プロセスによる組織と高温特性

    チタンはニッケルや鉄の半分ほどの密度で、約600̊℃以下ではニッケル基合金よりも優れた比強度を有しており、エンジン部材の一部には耐熱チタン合金が使われています。エネルギー効率向上のため、さらにチタン合金の適用温度範囲を広げるには、β相(体心立方構造)とα相(六方最密構造)の二相の組織形態を制御し、高温特性を改善する必要があります。従来の鍛造後熱処理プロセスでは、等軸α相組織、あるいはα相/β相の層状組織が形成されます。前者は疲労特性、後者はクリープ特性の改善に効果的ですが、疲労特性とクリープ特性の両方を向上させるのは困難です。両方の組織が混在したbimodal組織で特性のバランスを保持していますが、従来ブロセスによる耐熱チタン合金の組織制御と高温特性向上は限界に達しています。

    従来の鍛造プロセスにより得た耐熱チタン合金の組織と、疲労・クリープ特性との関係

    従来の鍛造プロセスにより得た耐熱チタン合金の組織と、疲労・クリープ特性との関係

  • 超温度場における積層造形

    本研究では、積層造形による超温度場での高い温度勾配と冷却速度を利用して、高温で安定なβ相固溶体を室温まで保持すること、さらには結晶配向を制御することで、今まで実現したことのないチタン合金β相の単結晶化を試みます。
    そして、例えば、β単相からα相を一方向に配向して析出させたラメラ組織を作り、ジェットエンジン回転体の遠心方向に特に優れた高温強度を示す新しいチタン材料を創成します。このように、超温度場を利用して従来のプロセスでは形成不可能な単結晶母相や微細組織を有する新しいスーパーチタン合金を創成し、高温特性の向上をめざします。

    超温度場を利用して創成をめざすスーパーチタンのイメージ図。

    超温度場を利用して創成をめざすスーパーチタンのイメージ図。β単相からα相を一方向に配向して析出させたラメラ組織により、回転体遠心方向の高温強度向上を図ります。

  • 計算による理想析出形態の条件探索

    超温度場で得られたβ単相から、特性向上に寄与するα相の最適な析出形態を得るための合金組成・熱処理条件を計算で探索します。析出現象を記述する簡易なモデルとエネルギー計算により、合金組成や熱処理条件を様々に変えた場合の、α析出相の形成・成長過程を予測することで、理想析出形態の条件を探索します。

    チタン合金のβ単相からα相と第三相の析出をエネルギー計算により予測した例。

    チタン合金のβ単相からα相と第三相の析出をエネルギー計算により予測した例。

A03-b班

超温度場バイオマテリアル創成科学 生体機能を操る3DP超温度場材料の創成

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3Dプリント(3DP)が生み出す「超温度場」を駆使して、骨に用いるバイオマテリアルを具体的なターゲットとし、「表面」と「バルク」の両観点から高機能なデバイスを創製するための科学的な取り組みを行います。3DPを用い、(バルク)原子の配列やその方向を緻密に制御するとともに、表面には細胞制御のための形態的・化学的修飾を施し、人工物を介して骨生体機能を人為的に操ることができるバイオマテリアルを獲得します。さらに、生体内でのバイオマテリアルの機能性を評価するための指標を策定します。

代表者 石本 卓也 石本 卓也 富山大学 学術研究部都市デザイン学系・教授
分担者 上田 正人 上田 正人 関西大学化学生命工学部・教授
分担者 松垣 あいら 松垣 あいら 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻・准教授
  • 超温度場を駆使したバイオマテリアルの高機能化

    3Dプリント(3DP)でしか実現し得ない超温度場を駆使して創成した「3DP超温度場材料」の社会実装に向けた出口の1つとしての、「超温度場バイオマテリアル」の創成を目指しています。特に本研究では、骨への適用を目指したバイオマテリアルにターゲットを絞ります。バイオマテリアルは、生体組織との相互作用の中において機能発現するべきデバイスです。本研究では、『バルク』と『表面』の両側面から生体組織への働きかけを可能とする仕組みを、超温度場を活用して金属バイオマテリアル中に導入することを目指しています(図1)。

    図1)3DPならではの超温度場制御による、バルク・表面(生体との界面)の両面からのバイオマテリアルの高機能化の概念図。

    図1)3DPならではの超温度場制御による、バルク・表面(生体との界面)の両面からのバイオマテリアルの高機能化の概念図。

  • 超温度場による「バルク」創成

    超温度場を用いた『バルク』の創成としては、骨への応力遮蔽による骨の劣化を抑制するインプラントデバイスの実現のため、β型チタン合金に関して、超温度場とβ相の不安定性との関連や超温度場中での結晶配向化(図2)を着眼点として、低ヤング率化とそのための超温度場条件の探索を進めます。

    図2)超温度場中でのスキャンストラテジーに基づく結晶配向化。 矢印の長さで、結品方位に依存したヤング率を表します。

    図2)超温度場中でのスキャンストラテジーに基づく結晶配向化。矢印の長さで、結品方位に依存したヤング率を表します。

  • 超温度場による「表面」創成

    さらに、バルクに対して、『表面』での生体機能性の複合化を目指します。表面創成は、Chemicalな観点、Morphologicalな観点を両輪とします。Chemicalな観点では超温度場材料表面での酸化物等による半導体特性を活用し(図3)、Morphologicalな観点では、超温度場による表面起伏の自発的形成を制御します。3DPによるこれらの細胞体スケール、細胞突起スケールでのパターニングによって細胞の存在のON/OFFや、正常な生体組織誘導のための細胞配列の制御を試みます。最終的には、創成したバルク・表面を一体造形し、in vitro、in vivo試験により生体反応に基づいてバイオマテリアルとしての機能性を評価します。こうした取り組みは、3DPによる従来型のバイオマテリアル開発の主流である三次元複雑形状制御によるものとは一線を画す、新規のコンセプトです。

    図3)TiO2へのUV照射による表面電位制御。TiO2のパターニングで細胞ON/OFF制御が可能と期待されます。

    図3)TiO2へのUV照射による表面電位制御。TiO2のパターニングで細胞ON/OFF制御が可能と期待されます。

A03-c班

超温度場セラミックス材料創成科学 超温度場を利用したセラミックス製造プロセスの新展開

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高強度レーザー照射下で部材内部や表面に生じる超温度場を利用した新たなセラミックス部材製造プロセスの創出を目的として、セラミックスの超温度場プロセス現象の基礎科学的理解を進めます。「超温度場焼結」では原料セラミックス粒子の界面近傍に生じる局所加熱場での粒子結合および結晶成長に着目し、「超温度場結晶成長モニタリング」を用いたその場観察手法と組み合わせることによって、素過程の理解を進めます。「超温度場CVD」では気相からの固相析出過程に直接的エネルギーを供給することで得られる特異構造コーティングの形成メカニズム解明を進め、また「超温度場微粒子スプレーコーティング」では局所的エネルギー供給下での異種材料界面現象の理解と実用コーティングプロセスへの展開を進めます。

代表者 木村 禎一 木村 禎一 (一財)ファインセラミックスセンター 材料技術研究所・首席研究員
分担者 吉川 健 吉川 健 大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・教授
分担者 篠田 健太郎 篠田 健太郎 (国研)産業技術総合研究所 製造技術研究部門機能表面研究グループ・研究グループ長
分担者 伊藤 暁彦 伊藤 暁彦 横浜国立大学大学院 環境情報研究院・准教授
  • レーザーを用いた超温度場セラミックス焼結技術の創成

    セラミックス原料成形体にレーザーを照射すると粒界近傍で超温度場が発現し、部分溶融による急激な結晶成長や、粒子間の強固な結合、レーザー照射方向への異方性収縮など、従来の電気炉を用いた焼結プロセスとは異なる特徴が見られます。そこで本研究では、特にアルミナを対象に、焼結プロセス・結晶成長プロセスにおいて特異な微構造が得られるメカニズムを系統的に明らかにします。

    レーザー焼結による透明アルミナ焼結体の例

    レーザー焼結による透明アルミナ焼結体の例

  • 超温度場結晶成長モニタリングによる超温度場プロセス現象の理解

    アルミナ微粒子層へのレーザー照射による高速焼結技術は、高速生産性で極めて優れ、3DPプロセスとの親和性も高く、さらには他材料への応用可能性の点でも期待が大きくなっています。一方で、レーザーによる被加熱機構と焼結メカニズムは解明に至っていません。そこで本研究では、サファイア基板に塗布したアルミナ粒子層へのレーザー照射下での加熱挙動ならびに粒子を駆動力としたサファイア基板のホモ成長速度の、高温顕微鏡によるその場観察を行い、被加熱挙動と焼結機構の解明を目指します。

    その場観察による結晶溶解フロントの観察例

    その場観察による結晶溶解フロントの観察例

  • レーザー超温度場を活用した化学気相析出プロセスの創成

    化学気相析出 (CVD) 法は、気相からの析出反応により機能性材料や硬質材料の結晶成長や基材被覆を行うプロセスです。超温度場CVDでは、レーザー照射によって気相-膜界面へ直接エネルギーを投入できます。これは、従来の熱平衡温度場を利用した熱CVD法では全く到達できない活性な結晶成長であり、本プロセスにおいて散逸構造の形成が起こることがわかってきました。しかし一方、気相析出を経由した散逸構造の形成メカニズムや各成長段階における組織形成の様子は明らかになっていません。本研究では、超温度場CVDにおける気相からのナノ構造形成のその場観察を通じ、超温度場セラミックスプロセス科学の学理構築に貢献します。

  • レーザー超温度場を活用した微粒子スプレーによるセラミック材料創成

    セラミックスをはじめとする脆性材料の微粒子スプレープロセスにおいて、プラズマ援用が製膜ウィンドウの拡大に有効であることがわかってきました。しかしながら、その一方で、注入エネルギーが及ぼす粒子界面形成・接合に関する理解が不十分であり、その材料創成への展開を限定的なものとしていました。そこで、本研究では、プラズマよりも局所エネルギー密度の大きなレーザーの導入により創り出される超温度場を活用することで、微粒子スプレープロセスにおける界面形成・接合の本質に迫ります。界面制御の指針が得られれば、新たなセラミックコーティング創出に加え、セラミック直接造形など新たな材料創成にもつながります。

住所 「超温度場3DP」領域事務局
大阪大学 大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2番1号(R2棟614)
2-1 Yamadaoka,Suita,Osaka 565-0871,Japan
EMAIL: s3dp@mat.eng.o saka-u.ac.jp
TEL: 06-6879-7477
内部用