学生・若手の活動報告

海外研究発表研修

2009年度理工系大学院生のための海外研究発表研修報告
大阪大学大学院 工学研究科 マテリアル生産科学専攻
網野岳文,門田圭二,多田昌浩,辻野雅之,堀内悠,宮川春彦,山口勝弘,山本将貴

1.はじめに
我々は、グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」の支援のもと、「理工系大学院生のための海外研究発表研修」プログラムに参加した。研修は理工系大学院生が研究を行う上で必要である英語でのプレゼンテーション、およびディスカッション能力向上を目的とした短期プログラムであり、アメリカのワシントン州シアトル市に位置するワシントン大学(University of Washington、以下UW)にて約4週(2009年8月28日−9月24日)に渡って実施された。研修参加者は本グローバルCOEからは本報告書著者の8名と、大阪大学大学院工学研究科の他二拠点のグローバルCOE(生命環境化学グローバル教育研究拠点、高機能化原子制御製造プロセス教育研究拠点)などから11名である。研修では現地のインストラクター1名と、研修に於ける様々な補助や企画立案を行って頂いたUWの博士後期課程の大学院生6名に主に対応して頂いた。

2. 研修内容
2.1 講義
平日の9時から15時まで、研修参加者は一つの講義室にてインストラクターによる講義を受けた。一日の講義は主に学生同士の英会話から始まり、自身のアメリカでの生活や研究についてなどについて話した。インストラクターも会話に参加して下さり、英語で話す良い練習となった。その後はインストラクターによる所謂講義が行われた。講義は基礎的な英会話から始まり、日本人には難しいとされる前置詞や冠詞の使い方や発音の仕方や聞き分け方、そして本研修の主目的である英語での研究発表能力向上のための様々な内容があった。例としてアブストラクトの書き方、プレゼンテーションで聴衆の注意を引きつける効果的なフレーズや、プレゼンテーションで話す際の抑揚の付け方などがあり、今後、研究発表を行う上で非常に役に立つ知識を身につけることが出来た。


研修参加者、インストラクター、UWの大学院生の集合写真

2.2 パネルディスカッション
2回行われたパネルディスカッションで、『アメリカ−日本間での大学院進学や大学院生の意識の違いについて』と、『博士後期課程修了後の進路について』のテーマで、UWの大学院生やポスドクと議論する機会が設けられた。しかし非常に残念ながら、いずれのテーマで行われたパネルディスカッションでも、大阪大学の学生から積極的に自身の意見を述べられる学生はほとんどいなく、2、3人の学生が意見を述べただけであった。この経験を通して実感した一般的に言われる事実がいくつかある。まず、アメリカの大学院生は日本の大学院生に比べて、自身の身の振り方について非常に深く考えている。そのため、アメリカの大学院生は上述の様なテーマで議論する際に確固とした意見をそれぞれが有しており、日本の大学院生は議論の相手として力が足りていなかった。さらに日本人独特の謙虚さもこのようなディスカッションの際には、自身の意見を述べる上での妨げになることを感じた。多少なりとも意見を持っている学生も、大勢の前で、また拙い英語で意見を述べるということに非常に抵抗を持っているようで、意見を述べることができずに終わってしまっていた。今後、研究者になるためには、このような点は改善する必要があると強く実感した。

2.3 ポスタープレゼンテーション
研修中盤で、研修参加者とインストラクター、およびUWの大学院生に対してポスター発表を行った。発表に用いたポスターは研修出発前に日本で作成したものであったため、講義を受けた上でそれぞれのポスターを見ると改良の余地があることがわかった。しかし、そのように改良点を見つけることが出来るようになっており、今後のポスター作成の際には、講義で学んだ内容を生かして、自身の研究を伝える上で効果的なポスターを作ることが出来ると思われる。ポスターそのものは拙い部分があるものの、話す際には講義で学んだことを生かして自身の研究の説明を行うことができた。


ポスタープレゼンテーションの様子

2.4 オーラルプレゼンテーション
研修の仕上げとして、会議での口頭発表と同様の形式でプレゼンテーションを行った。発表に先駆けて、UWの大学院生がそれぞれの発表を磨き上げるための手助けをしてくれた。アメリカの大学院生は効果的な発表の仕方を身につけているため、多数の学生が参考になる意見をもらうことができた。本番の発表は研修参加者とインストラクター、およびUWの大学院生に対して行った。全学生がそれぞれきちんと準備していたため、いずれの発表も練習段階と比べて質の高い発表であった。それぞれが、講義から学んだ発表で用いる効果的なフレーズや、スライドの作り方、聴衆とのアイコンタクトなどを実践できていた。また多くの学生が発表内容を暗記して話すのではなく、出来るだけその場で考えて話すようにしており、発表能力の向上が実感できた。質疑応答の際は、大阪大学の学生からの質問だけでなく、インストラクターやUWの大学院生からの質問にも全員が適切に答えることができていた。また、いずれの発表も全員が真剣に聴いていたため、積極的に質問が出る場面も多く活発な質疑応答となった。


オーラルプレゼンテーションの様子

3. 現地での体験
3.1 ホームステイ
研修以外の生活においても、英語能力向上に役立つ場面が多数あった。その一つとしてホームステイの経験が挙げられる。ホームステイは研修参加者がそれぞれ異なる家庭に滞在した。家庭環境は様々であったが、いずれのホームステイ先も他国からアメリカに移住してきた家族が多く、英語を母語とする家庭は意外に少なかった。ホームステイでの経験も千差万別であり、例えば夜は必ず一緒に食事をとる家庭もあれば、各自が別々で食事をする家庭もあった。また週末にホストファミリーに観光などに連れて行ってもらった家庭もあった。しかし、どのような家庭においても生活する上での会話や意思表示は必須であるため、全員が不慣れながらも英語による会話で家族の一員として生活を送ることができた。

3.2 アクティビティ
その他の経験として、UWの大学院生が企画をしてくれたアクティビティがある。初めの週末にはスカベンジャーハントという、指定された場所の写真を撮ってくる企画を、ダウンタウンで催してくれた。その際に現地の人に道を聞いたりする必要があったため、英語での生活が始まるにあたってよい経験となった。その他に、UWの研究室を見学させてもらうことができた。設備などは日本と大差はないが、よく言われるようにアメリカでは短時間で密度を高く研究を行う学生が多いようであり、そういった点は我々もより実践すべきと感じた。

4. 研修成果
本研修を通して、プレゼンテーションを行う上で、どのような点が重要であるかを学ぶことができた。日本では講義などでプレゼンテーションについて学ぶ機会などはないため、これまでは朧気な知識であったものが、はっきりと理解できた。今後プレゼンテーションを行う際は、この経験を生かしたい。また他に感じた事は、英語で話すことに抵抗がなくなったことが挙げられる。初めは尻込みしていたが、最終的には日本語で話しかける際と同程度の感覚で人と会話が出来るようになった。

5. まとめ
2009年度理工系大学院生のための海外研究発表研修に参加し、それぞれが研究発表能力の向上を実感できた。本研修は非常に有用なプログラムであった。

謝辞
本研修プログラムは、研究拠点形成費補助金グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」(大阪大学)の支援のもと参加した。また研修において現地スタッフおよび大阪大学のスタッフより多大な御指導および御助力を頂いた。プログラムおよび各位に深く感謝の意を表する。