学生・若手の活動報告

プロジェクト報告

2010年度理工系大学院生のための海外研究発表研修報告
大阪大学大学院 工学研究科 マテリアル生産科学専攻
池尾直子,伊原涼平,園村浩介,永塚公彬、野田慶一,福康二郎

1.はじめに
我々は、グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」の支援のもと、アメリカ合衆国・ワシントン大学(University of Washington,以下UW)にて「理工系大学院生のための海外研究発表研修」プログラムに参加した。UWはアメリカ西海岸・ワシントン州シアトルに位置しており、本研修は約3.5週(2010年8月27日−9月21日)に渡り実施された。本研修の目的は、理工系大学院生にとって必要不可欠となる英語でのプレゼンテーション能力の習得、およびディスカッション能力向上である。さらにはホームステイによる日常英会話能力の向上やアメリカ文化の体験も期待された。研修には本グローバルCOEからは本報告書著者の6名と、大阪大学大学院工学研究科の他二拠点のグローバルCOE(次世代電子デバイス教育研究開発拠点、高機能化原子制御製造プロセス教育研究拠点)から6名の計12名が参加した。現地ではインストラクター1名の他、UWのプログラム企画担当者3名および博士後期課程の学生(以下Peer mentor)3名に対応していただいた。ここに本研修プログラムの内容や参加者の感想を報告する。

2. 研修内容
2.1 講義
講義は平日の9時から16時まで行われた。講師はESL(English as a Second Language)が専門のインストラクターであった。毎日講義の始めは3〜4人の少人数グループに分かれ、週末のプランや前日の講義内容などについて英語でフリートークを行った。この会話により英語で話すことに対する抵抗を取り除くことができた。インストラクターもこの会話に参加し、便利な言い回しを教えてくれたり、言い間違いの訂正をしてくれたりした。その後はインストラクターによる講義が行われた。UW International Program Support部門と本学国際交流室留学生相談部により理工系学生の英語能力向上に適した講義内容が設定され、本プログラムのために作成されたテキストを用いた。講義内容としては、冠詞・発音・イントネーションといった基本的な事柄から、アブストラクトの書き方・添削、プレゼンテーションにおける効果的なフレーズや,話す際の抑揚の付け方など実戦的なものまで非常に幅広かった。これらの講義により、研究発表を行う上で大変役に立つ知識を得ることができた。


研修参加者、インストラクター、UWプログラム担当者、およびPeer mentorとの集合写真

2.2 パネルディスカッション
研修期間中、UWの大学院生やポスドク・先生とパネルディスカッションを行う機会が2回設けられた。テーマは『仕事・研究(目的・選択の基準)に対する価値観について』と『21世紀に実現させたい科学技術は何か』であった。これらのテーマは我々研修参加者側があらかじめ設定した。例年、言語の壁や日本人は他人の発言中に意見を言えないという習慣が災いし、研修参加者はなかなか発言することができないと聞いていた。そのため、本年度はあらかじめ研修参加者内で打ち合わせを行った上でディスカッションに臨んだ。その甲斐あってか、一人一回以上は発言することができ比較的活発なパネルディスカッションを行うことができたと感じた。ディスカッション中、日本人は他人の話が終わるまで待つという習慣があるのに対し、アメリカ人はたとえ話の途中であっても疑問・反論があれば話を遮って自分の意見を述べる場面が多々見られた。今後、研究者としてさまざまな国の研究者とディスカッションする機会が増えると考えられるので、このようなディスカッション手法に対応する必要があると実感した。

2.3 ポスタープレゼンテーション
研修期間の中ほどで各自の研究内容についてポスター発表を行う機会が設けられた。印刷したポスターを日本から持参していた昨年度までと異なり、本年度は現地で印刷するという手法が取られた。そのため、ポスター作成に関する講義内容を反映し、修正を行ったポスターを使用することができた。このポスタープレゼンテーションでは参加者同士やインストラクター、Peer mentorに対して各自の研究を紹介した。1対1、もしくは1対2といった少人数であったため、緊張することなくお互いの研究内容について英語でディスカッションするいい機会となった。


ポスタープレゼンテーションの一コマ

2.4 オーラルプレゼンテーション
本研修の最終週には、国際会議と同様の形式でオーラルプレゼンテーションを行った。研修参加者は、3週間に渡りインストラクターから指導していただいた内容を反映させながら発表の準備を行った。さらに、発表数日前からは放課後にPeer mentorが多くの時間を費やしてスライド内容・オーラル原稿についてアドバイスを与えてくれた。発表は研修参加者とインストラクター、およびPeer mentorに対して行った。3週間のインストラクター・Peer mentorの指導を経て、全員の発表は非常に質の高いものとなった。効果的な表現や、抑揚のつけ方、話すスピードの変化、スライドの作り方、聴衆とのアイコンタクトなど、講義から学んだことの多くを実践することができていた。また、多くの質問が出て非常に活発な質疑応答となった。


オーラルプレゼンテーションの様子

3. 現地での体験
3.1 ホームステイ
期間中、研修参加者はホームステイを通じて日常英会話やアメリカ一般家庭の生活や習慣を身をもって体験することができた。ホストファミリーは白人、黒人、メキシコ系、フィリピン系など様々であったが、総じて我々に対して非常に親切に接してくれた。最初はなかなか英語が聞き取れなく苦労したが、授業の様子、日本の文化や制度、日本の家族、一日の出来事や次の日の予定等を話し合うといったスモールトークを日々行うことにより、会話がスムーズに出来るようになった。また、日曜の教会への礼拝やシアトル市内の観光、遠く離れたアウトレットモール、ハイキングなどに連れて行ってくれるホストファミリーもいた。中にはパーティーが頻繁にあるような社交的なホストファミリーもあり、多くの見知らぬ人と英語で会話するいい経験を得られた参加者もいた。このような多くの体験を通し、わずか一ヶ月の期間ではあったが、親睦を深めることができたホストファミリーを第二の家族のように慕い、帰国後もメールのやり取りを続けている参加者もいるようである。

3.2 アクティビティ
Peer mentorはプレゼンテーションの手助けだけでなく、非常に多くのアクティビティを準備して参加者をもてなしてくれた。滞在中に1回、Peer mentorらの所属している研究室を見せていただく機会があった。実験装置の質・量については大阪大学の各研究室と大差がないという印象を受けたが、実験室は広々としており、専攻内に実験に必要となる実験道具・部品を販売している部署があるなど、ハード面で優れている面が垣間見られた。その他にも大リーグ観戦、カヤック、サッカー、海辺でのバーベキューなど大変楽しい企画を準備してくれた。

4. 研修成果・まとめ
2010年度理工系大学院生のための海外研究発表研修に参加した。短期間ではあったが、英語でのポスター・オーラルプレゼンテーションをはじめとして、理工系学生にとって必要とされる英語でのコミュニケーション能力を培うことができた。英語に対する抵抗がなくなるなど、参加者全員が自らの成長を実感することができ、大変有用なプログラムであった。今後の国際会議や研究発表の機会に今回の研修で得た学びを生かして行きたいと思う。

謝辞
本研修プログラムは,研究拠点形成費補助金グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」(大阪大学)の支援により実施された。また、本研修にあたり、ワシントン大学および大阪大学関係者の皆さまに企画・実施など多大なご尽力・ご指導をいただいた。プログラムおよび関係者各位に深く感謝の意を表する。