学生・若手の活動報告

海外武者修行プログラム・海外語学研修参加報告

トリノでの留学生活
大阪大学・工・マテリアル生産科学専攻 白仁田沙代子

1. はじめに
私は、昨年9月中旬から11月末までの約2ヶ月半の期間、イタリアのトリノ大学Prof. Salvatore ColucciaグループのProf. Gianmario Martra とDr. Patrizia Davitの下で、COガスをプローブに用いたIR吸収スペクトル測定を行い、触媒のキャラクタリゼーションに関する研究をさせて頂いた。ここではIR吸収スペクトル測定を利用した表面構造解析に関して、優れた実験技術を有しており、測定技術と解析手法技術を習得することができた。以下に、得られた経験や感想をまとめた。

2. トリノ
トリノ大学は、イタリア北西部のピエモンテ州の州都トリノにある公立大学であり、1820年にイタリア初の数理物理学教室が設立された大学である。この教室の初代教授にはアヴォガドロが着任し、大学建物のエントランスホールにはアヴォガドロの像があった。トリノといえば、イタリアサッカーリーグのセリエAのユヴェントスの本拠地としても知られ、2006年の第20回冬季オリンピックが行われた都市であり、日本人としてフィギュアスケートで荒川静香選手が金メダルを獲得されたことが記憶に新しいのではないだろうか。かつて、1720年から1861年まではサルデーニャ王国、1861年から1865年まではイタリア王国の首都であったトリノの中心地には、世界遺産・サヴォイア王家の王宮群がある。これまで、工業都市として発展してきたが、トリノオリンピックを契機に地下鉄や大きな商業施設も完備され、現在は観光都市としても力を入れている。

3. 研究生活
実験室にはいろんなグループの先生や学生が常時出入りし、様々な装置が共同で使用されていた。そのため、使用するには予約が必要であり、実験計画をきちんと立てておかないと周りに迷惑をかけてしまう。大学は8時から20時までと使える時間が決まっており、効率よく実験をしなくてはならなかった。いつ、どのくらい使うのか相手の意見を聞くと同時に、自分の意見も伝えることで、時間を有効に使うことができる。基本的なことであるが、時間とコミュニケーションの大切を感じた。また、日本に比べ女性の割合が高く、お子さんがいる研究者も多いことに驚いた。さらに、イタリア人だけでなく、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、ブルガリア、バングラデッシュ、イギリス、イラン、インド、中国、ベトナムといった様々な国籍の研究者・学生がいて、様々な言語が飛び交っていた。共通語は、英語とイタリア語であった。一日はCiao!で始まり、Ciao!で終わる。必ず、名前を呼び合い挨拶を交し、一日のうちに何度も調子はどう?問題はない?大丈夫?と声を掛けてくれ、困っていると自分のことのように相談に乗ってくれる。またこちらが興味を示すと、何事も丁寧に教えてくれる。些細なふれあいの中に、温かさを感じた。

4. 語学とコミュニケーション
イタリア語を学びたいと思うきっかけとなったのは、ルームメートの言葉であった。私のことを彼女は友達に、英語しか話せないと紹介したのである。英語も苦手なうえ、しかも過去にドイツ語を履修してはいたが、恥ずかしながら単位を修得しただけですっかり忘れてしまっている。もちろん、英語だけで生活することは可能ではあったが、郷に入っては郷に従えという諺があるように、その土地でしかできないことに挑戦したくなり、大学で開講されていた留学生用のコースに参加させてもらった。日本で英語を学ぶ以上に、現地で学ぶことは、わからない中にも不思議と楽しかった。覚えたての言葉を、すぐに試すことができ、間違っていれば、誰もが丁寧に教えてくれる環境。今まで苦手でしかなかった語学に対して初めて学ぶことへの面白さを感じるとともに、日本語のよさにも気付くことができた。外国人の方がたどたどしくても、日本語を使われると和むように、相手の国の言葉を一言でも発することができると、話す楽しみが一層増す。今の時代、世界は非常に狭くなっており、連絡を取り合うことは簡単である。今回、知り合った方々とのつながりを今後も大切にしていきたいと思う。

5. 今後
今回トリノでは、すばらしい人々に恵まれ、食べ物もおいしく、研究だけでなく本当に貴重な経験をさせて頂いた。しっかりとした自分の意見を持ち、伝えることの大切さ、コミュニケーションの素晴らしさを学ぶことができた。今回学んだ様々な事を、今後の研究生活に活かしていきたいと思う。

謝辞 今回、渡航・滞在費用に支援頂きました、研究拠点形成費補助金グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」(大阪大学)に感謝いたします。


写真:左から、実験室にて、カステッロ広場とサヴォイア家の王宮(右奥)、
モーレ・アントネリアーナ(トリノのシンボル)