学生・若手の活動報告

海外武者修行プログラム・海外語学研修参加報告

2008年度理工系大学院生のための海外研究発表研修報告
大阪大学・工・マテリアル生産科学専攻 齊藤知・當代光陽・福田敦・溝尻瑞枝・宮部さやか

1. はじめに
グローバルCOEプログラム「構造・機能先端材料デザイン教育研究拠点」(大阪大学)の支援をいただき、「理工系大学院生のための海外研究発表研修」に参加した。研修は、国際会議での英語でのプレゼンテーション能力をはじめとした、理工系大学院生が必要とする英語の能力の向上を目的としたものであり、約1ヶ月間の短期集中型の研修で多くの知見や経験を得ることができた。ここに研修プログラムや参加者の意見・感想を報告する。
研修期間:2008年8月22日〜2008年9月18日
留学先:University of Washington(UW)(USA)
参加メンバー:(本グローバルCOEプログラムからの参加者5名)齊藤知、當代光陽、福田敦、溝尻瑞枝、宮部さやか(+他のグローバルCOEプログラム「次世代電子デバイス教育研究開発拠点」「生命環境科学グローバル教育研究拠点」(大阪大学)からの参加者11名)図1は大阪大学からの参加者+UWのPeer Mentors+インストラクターの集合写真。


図1 大阪大学からの参加者、UWのPeer Mentor、インストラクターの集合写真。
UWのシンボルである噴水の前で。

2. 研修プログラム
2-1 講義
講義は通常月曜日から金曜日の9時から15時まであり、週に2、3日ほど、午後の講義の代わりのプログラムが入る以外は、参加者全員が1つの教室で受けた。初回にアメリカ文化やホームステイ先での注意点、人に物を頼むときの丁寧な言い方などの日常的に使う英語を習ったあと、日本人には難しい前置詞や冠詞の微妙なニュアンスといった文法や発音から、国際会議を想定したアブストラクトの書き方、自分の研究や講義中に与えられたテーマについて即興で行うスピーチ練習などを行った。
日本の講義と異なり、講義形態がインストラクターと生徒あるいは生徒同士が議論する形式であった。はじめは意見することに慣れておらずインストラクターがもっと話すように促していたが、研修の最後のほうでようやく慣れた。英語の話すスピードよりも議論することに慣れていなかったことのほうが大きな障壁だった。インストラクターは、フランス人であったせいか、アメリカ人とは違う雰囲気であった。ホームステイ先や町で聞く英語よりも非常に聞き取りやすく文法に沿ったきれいな英語で話してくれた。我々の名前は2、3日で覚えており、常に紳士的に、すべての質問に丁寧に答えてくれた。日本人が陥りやすい発表の失敗例をよく知っているようで、間違いや改善すべき点を的確に指導してくれた。講義は、問題の解答をしながら文法などを学んでいく形式で、宿題で予め問題を解いてきていることが前提で翌日の講義が行われた。宿題は思っていたよりも多かった。図2は講義中の風景。(當代)


図2 講義中の風景。ディスカッション形式の講義が多かった。

2-2 通常講義以外のプログラム
通常講義以外のプログラムとして、パネルディスカッション、ポスター発表、研究室訪問、最終オーラルプレゼンテーションがあった。
【パネルディスカッション】 第1週と第2週に2回行われた。1回目は、アメリカの大学、特に博士課程の研究生活やその後の研究者生活について、UWの学生ら(peer mentors)と話し合い、2回目は、UWの留学生たちとアメリカの大学で留学生として研究を行ってきた経験を聞くなどした。両方の回とも、阪大生側からの意見があまり積極的には出なかったことが残念であり、反省点である。その原因として、1. 第1週目は我々の多くが疲れ果てていたこと、2. 到着して日が浅く英語に慣れていなかったこと、3. 16人プラスmentor数人という、決して多くはないが、これだけの集団の中で率先して話すことに日本人である我々は慣れていなかったこと、そして、4. 自身の将来像について突然問われたときに答えられるだけの考えを我々の多くが持ち合わせていなかったことが考えられる。1.2.3. については、インストラクターの講義を受ける中でも感じたが、日が経つにつれ明らかに改善されていった。1週目の休暇後には時差ぼけが改善し、英語の環境に慣れてきた。4. については、UWの学生は日本人の学生に比べて、自身の将来像、人生プランを具体的に持っていたように思う。意識の高さを感じるとともに、見習わなければいけないと思った。
【ポスター発表】第2週目に行われた。参加者同士、特に他のCOEからの参加者は、アメリカに着くまでそれぞれを知らない状態だったので、ポスター発表を通して互いを知るよい機会になった。宿題としてポスターを日本で印刷していくように言われていたので、講義中でポスター作製のアドバイスがあったが、改善点があってもそれをこのポスターに反映することはできなかった。しかし、その後の国際会議のポスターで生かすことができた。図3はポスター発表の一コマ。
【研究室訪問】 第1週に1度、peer mentorらの研究室に連れて行ってもらい説明を聞いた。 peer mentorが属する研究分野に偏りがあり、材料系の研究室訪問は少なかったが、アメリカの研究室の雰囲気をつかむことができた点ではよかった。研究室のある建物は外から見ると100年前の重厚なつくりであるが、中は近代的で、日本の研究室と似ていた。
【最終オーラルプレゼンテーション】 第4週目に本番が行われ、その前週である第3週目の放課後にpeer mentorらによるプレゼンテーションチェックがあった。Peer mentorらによるチェックでは、3から4人のグループに別れ、それぞれ一人のmentorがついてチェックをしてくれた。ネイティブに直接、プレゼンについてみてもらえる機会はあまりなかったので、大変有用であった。特に、話をつなぐときの言い回し等、細かいところまでチェックをしてもらえ、研修の最終プレゼンだけでなく今後の発表においても役立つ言い回しを教えてもらうことができた。本番では、前日に練習時間もあり、十分に準備ができていたため、発表についてはほとんどの学生がスムーズに発表できていた。質疑応答については、練習をする時間がほとんどなかったこともあり、スムーズにとはいかなかったが、多くの質問が我々学生から出され、積極的なディスカッションの場となった。積極的にディスカッションできるようになったのは進歩だと思う。(溝尻)


図3 ポスター発表の一コマ。インストラクター(右)とUWのpeer mentor(左)とのディスカッション。

2-3 ホームステイ
ホームステイでは、日常会話を通じての語学学習を行うとともに、日本と違なる文化、考え方などを学ぶことができた。事前アンケートなどで学生と各家庭とのマッチングをうまく行っていただいたようで、各学生とホストファミリーとのマッチングはうまくいっていたように思う。ネイティブアメリカンは少ないようで、受け入れてくれているホストファミリーはフィリピンやメキシコ、ポーランドや中国、なかには奥さんが日本人(ホストが日本人でも日本語は決して使わない)と、多彩であった。
平日は学校から帰宅すると食事を一緒にとり、その際にいろいろな会話をした。会話の内容はその日の学校のことから日本について、日本とアメリカの違いなど、様々であった。このホストファミリーとの会話を通じ、アメリカと日本の違いを知ることができた。ホストファミリーの多くが私たちと会話することを好んでくれており、私たちにとっても彼らと会話することはアメリカの文化、考え方を知り、英語の学習になり、なにより彼らと親しくなれるので非常に重要であったが、普段の授業での課題が多く、そちらに時間をとられてしまいなかなか話す時間が十分に取れないという点は問題であったと思う。
また、休日には「私たちは○○をするが、一緒に来る?」といったように、こちらの都合を聞いた上で彼らの休日の予定を話し、誘ってくれた。私自身はホストファミリーの祖母の誕生日パーティーに連れて行っていただいたり、教会のピクニックに参加したり、教会に連れて行っていただき、彼らの文化、生活習慣などを感じるよい経験ができた。とくに教会のミサは、皆で和やかに歌っていたかと思うと、神父の言葉によって泣き出す人、それに付き添い慰める人に分かれ、泣いた後はみんなで笑顔になって再び歌う、といった不思議な光景を目の当たりにし、少々戸惑ったが、あれが彼らの感情コントロールの術なのだろう。
ホストがネイティブの家庭は少なかったが、ネイティブでないということは、語学学習の面では発音などマイナスのような気もするが、彼らがネイティブでないからこそ、外国人である私たちを受け入れ、決して流暢ではない会話も一生懸命に聞こうとしてくれたのだと思う。また、ネイティブではない彼らが内側から見たアメリカ人、アメリカの文化の良い面悪い面について話してくれたいろいろなことは非常に興味深かった。1ヶ月足らずの短期間にも関わらず、ホストファミリーと親密になり、第二の家族のように思っている人も多い。帰国してからもホストファミリーとメールでやりとりしたり、それぞれ親睦を深めているようだ。(宮部)

 

3. 研修後の変化
英語を話すことに恐れなくなり、少しは話せるようになった。ホームステイだったので、アメリカでの暮らしを学べた。私の場合は、多国籍ハウスだったのでその他の国の習慣・マナーなども学べた。本研修後参加した国際会議で、海外の方とコミュニケーションがとれた。
一月ほどの短期間の訓練で、英語のリスニング力の改善は可能であることを感じた。滞在当初、英語に不慣れだったため、物事の説明を知っているやさしい語彙で話すことになったが、そのことが物事を簡単に説明するための訓練になったと思う。最終オーラルプレゼンテーションでは、各々の発表をビデオ録画し、帰国後、その動画を見た。自分の発表風景の録画については、本研修に限ることではないが、いざ個人で行う練習では、およそないことなので自分の発表の様子を自分で見返すのは刺激的であったし、改善点がより知らしめられる感じだった。(齊藤・福田)

4. まとめ
2008年度理工系大学院生のための海外研究発表研修プログラムに参加した。講義やUWの学生との交流を通して、英語での議論を行うことの抵抗が小さくなり、積極的な議論を行う姿勢が身についた。短期間であったが、ヒアリング能力が改善され、その後の国際会議でのコミュニケーションに生かすこともでき、大変有用なプログラムであった。

謝辞 本研究は、研究拠点形成費補助金グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」(大阪大学)の研究費支援のもとに実施された。